列車飛び込み事故(鉄道人身事故)の遺族の方へ③

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飛び込み事故(鉄道人身事故)と遺族の損害賠償債務

本ページでは、列車飛び込み事故(鉄道人身事故)と遺族の損害賠償債務について説明しています。
初めから読む方はこちら。列車飛び込み事故(鉄道人身事故)の遺族の方へ①
前の投稿を読む方はこちら。列車飛び込み事故(鉄道人身事故)の遺族の方へ②
ポイントは、
① 患者の責任能力
② 患者の生死
③ 患者の財産
です。

飛び込み事故と相続放棄

飛び込んだ本人に責任能力がある場合(上記①)、本人に損害賠償義務が生じます。本人が亡くなれば(上記②)、損害賠償義務の相続が発生することになります。遺族は、何も悪いことをしていないのに多額の賠償金を支払う羽目になる可能性もあります。

しかし、実際は、そんなことになることめったにありません。遺族は、相続放棄という制度を利用して、道会社への損害賠償を免れることができるからです。

相続放棄とは被相続人の遺産を承継しないことをいいます。ここでいう「遺産」にはマイナスの財産、例えば損害賠償債務も含まれます。相続放棄により、プラスの財産(預貯金、不動産など)の承継を放棄することで、マイナスの財産(債務)の承継も拒否できるわけです。

相続放棄は、鉄道人身事故の遺族にとって極めて重要な制度です。鉄道人身事故の遺族に限りません。親が借金を残して死んだ場合などに広く利用できる制度です。ぜひ知っておいていただきたいと思います。

なぜここまで強調するかというと、相続放棄という制度を知らずに、あるいは知らないふりをして、多くのドラマ、漫画、小説が制作されているからです。多すぎるといってよいでしょう。

ダメな親が借金を残して蒸発または死亡してしまい、親の借金を返すために、長年苦労を強いられてきたというキャラクターを見たことがある人は多いと思います。さらにいえば、列車への飛び込みの場合には相続は放棄できない、といった情報が掲載されているサイトさえ存在します。この情報は明確に誤りです。

飛び込み事故(鉄道人身事故)と自己破産

列車への飛び込みの結果、遺族が多額損害賠償債務を負担し、かつ相続放棄ができない場合もあります。例えば、相続放棄ができる期間(相続開始を知ってから3か月)に、相続放棄の手続きをとることができなかった場合などです。
そういったときは、最終手段として自己破産を検討します。自己破産とは、債務者が現に有する資産の範囲で債権者に対して債権額に応じた平等の弁済を行い、残った債務については免責を受ける手続きです。
破産者本人の浪費等があった場合でさえ、免責が認められないことはほとんどありません。まして損害賠償債務を相続した場合であれば、確実に免責が認められると思われます。

飛び込み事故(鉄道人身事故)の遺族に対する鉄道会社の請求額

上記の通り、鉄道人身事故の遺族は、相続放棄か自己破産を選択すれば、鉄道会社への支払い義務を免れることができます。

鉄道会社の側からすると、遺族に相続放棄や自己破産を選択させないことが重要となってきます。そうすると、遺族に損害の全額を請求するのは得策ではありません。現実的に支払いが不可能な金額を請求してしまうと、遺族が弁護士に相談して、相続放棄や自己破産を選択する可能性が高まるからです。

そのような深謀遠慮もあり、鉄道会社から遺族に対して、法外な金額、例えば数千万円もの損害賠償請求がなされることは、ほとんどありません。私が相談を受けた事案では、いずれも1000万円以下でした。

しかし、逆にいえば、鉄道会社は、遺族に支払い可能であると判断すれば、数千万円の請求をしてくる可能性があるでしょう。例えば、飛び込んだ本人に多額の生命保険金が掛けられており、遺族が保険金を受け取った場合などが考えられます。

(遺族が受領する保険金についてはこちら:列車飛び込み事故(鉄道人身事故)の被害者の方へ④

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