業務中の事故と従業員個人の責任③-裁判例の紹介

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目次

このコラムでは、業務中の事故に対する従業員個人の責任ついて解説しています。
①使用者責任
②使用者から被用者への求償の制限
③裁判例の紹介(←イマココ)

最高裁昭和51年7月8日判決―被用者の負担25%

リーディングケースとなった最高裁昭和51年7月8日の事案の概要は、以下のとおりです。

使用者Xは、プロパンガスの輸送・販売を業とする株式会社で、従業員50人ほどを雇用していました。被用者Yは自動車運転手として勤務しており、業務遂行中に衝突事故を起こしました。使用者Xは、被害者Aに対して車両の修理費と休業補償を支払ったうえで、支払額について被用者Yに求償権を行使し、X所有の車両の修理費用についても被用者Yに損害賠償請求を行いました。

最高裁は求償権及び損害賠償権の合計額の25%相当額、金額にして約10万円についてのみ請求を認容しました。75%相当額の請求を棄却したともいえます。求償権の制限するにあたり、考慮すべき要素を以下の通り列挙しました。
 1. 事業の性格、規模
 2. 施設の状況
 3. 被用者の業務内容、労働条件、勤務態度、
 4. 加害行為の態様、
 5. 加害の予防または損失の分担についての使用者の配慮

さらりと流しましたが、使用者自身に生じた損害についても、使用者から被用者への請求が制限されています。負担割合は、会社が75%、運転手が25%となりました。

名古屋高裁昭和59.2.24-労働者の負担割合20%

ここからは、最高裁判判決以降の下級審判例を紹介します。
まず、名古屋高裁昭和59年2月24日判決の事案の概要は、以下のとおりでした。

使用者Xは運送会社でした。被用者Yは、運転手として勤務していて、タンクローリーを運転風に転倒事故を起こしました。使用者Xは、被用者Yに対して、X所有の車両の修理費用を損害賠償請求するとともに、被害者Aへの損害賠償分について求償権を行使しました。

名古屋高裁は、使用者Xが車両保険に加入していなかったこと、被用者Yの勤務成績が中程度だったこと、他の従業員へ求償がなされたことはなかったことなどを考慮して、全損害額の20%、金額にして48万円について、請求を認容しました。つまり、運送会社の負担が80%、運転手の負担が20%と判示したのです。

大阪高裁平成13年4月11日-労働者の負担割合5%

本件では、使用者Xが運送会社、被用者Yは運転手として業務遂行中、使用者Xの車を破損しました。使用者Xは、被用者Yに対して、車両の修理費用全額を請求しました。

大阪高裁は、使用者Xが車両保険に加入していなかったこと、被用者Yの労働条件が特に優遇されたものではなかったこと、勤務成績も悪くなかったことなどの事情を総合的に考慮し、修理費用5%にあたる2万7000円について、請求を認容しました。つまり、運送会社の負担が95%、運転手の負担が5%と判示したのです。

まとめ

裁判例を概観すると、会社側の負担は5%から25%の場合が多いようです。報償責任の原理に基づき、最終的な損害の負担者は、基本的には使用者となっています。もっとも、負担割合だけでなく、考慮されている要素があると思われます。それは、労働者が負担する「金額」です。

会社から労働者への請求を制限する根拠は、信義則(民法1条2項)という一般条項です。すでに述べたとおりですが、民法1条2項は法律であって法律ではない。結論の妥当性を図るためのワイルドカードのような条文です。結論の妥当性というのは、いろいろな解釈があるでしょうが、一つの考慮の要素として、労働者が支払うことが現実的に可能な金額かどうかという点がありそうに思います。このページで紹介した判例が、事故を起こした労働者の雇用条件、すなわち賃金に言及しているのは、そのような理由からだと思われます。

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