無期雇用契約と解雇権濫用法理
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企業が有期契約という形をとってまで、解雇の機会を確保しなければならないのにも、やはり理由があります。
雇用契約の終了について、民法627条は、雇用契約の当事者はいつでも解約の申入れが可能と定めています。
しかし、人事部の人から「あなたを解雇します。再来週から来なくていいです」と言われたらどうでしょう?これは、なかなかのホラーです。民法は、100年以上前に成立した法律であり、雇用者と被用者とを純粋に対等な契約当事者と扱っています。企業の立場が圧倒的に強い現代社会の実情には、そぐわない面もあるのです。
そこで、労働者の地位を保護するため、労働基準法をはじめとして、各種の労働法が用意されています。解雇については、労働契約法16条に定めがあり、「解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効とする」とされています。いかなる場合に「社会通念上相当」な解雇といえるかはケースバイケースですが、一般的にはかなり高いハードルといえるでしょう。
例えば、整理解雇の有効性について、最高裁判所は以下の基準を提示しています。
① 人員整理の必要性
② 解雇回避努力義務の履行
③ 被解雇者選定の合理性
④ 解雇手続きの妥当性
企業にとって、無期契約の労働者を解雇するのは簡単ではありません。有期雇用契約は、労働契約法16条の適用を回避するためのツールとして、重要な役割をはたしてきたのです。
まとめ
以上をまとめると、次のようになります。
まず、民法上、雇用契約は、いつでも解約申し入れが可能とされています。
しかし、それでは雇用者の地位が不安定すぎるという不都合がありました。そこで、労働契約法および最高裁判例により、企業側の解雇権は大きく制限されています。
そこで、企業側は、事業の状況に応じて人件費をコントロールするため、有期労働契約という形式をとり、それを更新するという方法で、事実上、解雇権を確保してきたわけです。
無期転換ルールは、企業の解雇権を制限して、契約社員が正社員として雇用される道を開く制度といえます。
今後の課題
当然の成り行きですが、契約を更新してしまうと通算5年を超えてしまうような契約社員について、契約を更新しないという事例も増えています。
こうした企業側の対応について、厚生労働省は、違法ではないが「望ましくない」と述べるにとどめており、あいまいな態度をとっています。