生活保護受給者の債務整理相談
多重債務者の中には生活保護を受給している人も大勢います。そういう方から債務整理の相談を受ける機会もよくあります。しかし、生活保護を受給している方の債務整理は、基本的には自己破産しかありません。理由は二つあります。
ひとつは弁済原資がないということです。自己破産以外の債務整理は、債務の全部または一部の分割弁済となります。たとえ少額でも、月々払っていく必要があります。生活保護状態では、その費用を捻出することが困難なのです。
もう一つは生活保護の制度趣旨に合致しないということです。仮に、生活費を切り詰めて、月々少額の弁済原資を用意できるとしましょう。しかし、それは税金であり、本人のお金ではありません。保護費からの弁済は、国から金融機関への支払いを意味します。受給者の最低限度の生活を維持するという生活保護制度の趣旨に反するのです。市役所の職員からも債務の弁済に使わないようくぎを刺されるはずです。
生活保護受給者の自己破産
法テラスの援助
生活保護受給者が自己破産する場合、弁護士費用、裁判所費用をどのように工面するかという問題があります。結論としては、法テラスという団体から援助を受けることができます。
法テラスの民事法律扶助の制度は、弁護士費用を工面することができない人に対して、弁護士費用を貸し付ける制度です。一定の資力要件、収入要件を満たせば、この制度を利用することができます。ただし、この制度で援助を受けられるのは弁護士費用だけであり、裁判所費用は援助を受けられないのが原則です。
多くの場合、個人の自己破産の裁判所費用は1万数千円程度です。破産する人であっても、準備できない金額ではありません。しかし、浪費による借金が原因であったり、過去に破産したことがあったりすると、破産管財人を選任することになるため、裁判所費用は20万円を超えることがあります。これを準備することができず、破産を断念される方もいます。
しかし、生活保護受給者の場合、裁判所費用も法テラスに援助してもらえるのです。つまり、生活保護受給者は、弁護士費用も、裁判所費用も、何も心配せずに自己破産手続きを進めることができるのです。
法テラスへの償還免除
ところで、法テラスから受ける援助は貸付金なので、後で返済(償還)する必要があります。利息こそつきませんが、管財手続きの場合は償還金額が35万円を超えます。毎月1万円以上の償還が必要な場合もあります。
しかし、生活保護受給者の場合、この償還も免除してもらえる制度があります。というよりも、ほぼ確実に免除してもらえます。つまり、法テラスの民事法律扶助は、生活保護受給者にとっては「お金をもらえる」制度なのです。
少額債務による破産
生活保護受給者は一切の経済的負担なしで自己破産できます。そうすると、極めて少額の債務しかないのに自己破産したいという人も出てきます。例えば、債務総額が10万円なのに破産したいといった具合です。
法的には、債務額が10万円でも破産は可能です。裁判所が破産を認めるかどうかは、簡単にいえば債務を弁済する能力があるかどうかにかかっています。そして、生活保護受給者については、行政が「一文無しであり、かつ収入がゼロないし極めて少ない」ことのお墨付きを与えているわけです。裁判所が同様の判断を下すことは確実といえます。
しかし、先に述べた通り、自己破産手続を進めるためには、弁護士費用、裁判所費用が掛かります。管財費用が掛かる場合もあります。少なくとも15万円、多ければ35万円以上となることもあります。生活保護の方は、それだけのお金を「税金からもらって」破産をするわけです。その結果、免責される債務総額が10万円なのであれば、ハナから10万円を「税金からもらって」弁済すればよいようにも思います。その方が、税金による負担は小さい。
生活保護受給者の債務総額の小さい自己破産事件は、私は受任しないという方針をとっています。もちろん、受任する弁護士のことを非難する気持ちは全くありません。純粋にポリシーの問題です。申し訳ないのですが、そういった方は、ほかの法律事務所をあたってもらうことになります。ご了承ください。