労災の基礎知識②

雇用者への損害賠償請求

 前述のとおり、労災保険からの給付は、労災による被害の全てをカバーするわけではありません。したがって、損害の全てについて弁償を受けるためには、事業者の過失を立証して、事業者自身に請求する必要があります。
 しかし、たとえば通勤中の交通事故などの場合に、雇用者の過失を認めることは極めて困難でしょう。では、プレス機の事故の場合はどうでしょうか。
 実は、使用者は、労働契約に伴い、労働者がその生命、身体等の安全を確保しつつ労働することができるよう、必要な配慮をするものとされています。このような使用者の義務を、安全配慮義務といいます。
 使用者が、プレス機のメンテナンスを怠っていたような場合には、安全配慮義務が認められると考えられます。
 また、使用者は、労働安全衛生法上、労働者に業務の危険性等を認識させるため、就業時や作業内容変更時に、安全衛生教育を実施する義務があります。こういった労働安全衛生法上の義務は、安全配慮義務と多くの場面で重なります。
 したがって、使用者が、安全衛生教育を実施する義務を履行していない場合には、たとえ従業員の操作ミスが原因であっても、会社に責任が認められる可能性があります。
 従業員のミスの程度に応じて、過失相殺がなされることになると思われます。

過労死・過労自殺の問題

 過労死・過労自殺については、複雑な問題が絡んできます。
 なぜなら、医学的には「過労」が死因とされることがないからです。自殺と過労との因果関係を立証するのは簡単ではありません。
 まず、使用者には、前述の安全配慮義務の一環として、雇用する労働者に従事させる業務を定めてこれを管理するに際し、業務の遂行に伴う疲労や心理的負荷等が過度に蓄積して労働者の心身の健康を損なうことがないよう注意する義務があるとされています(最高裁H12.3.24)。
 そして、一般的には、半年間の平均で月80時間以上の時間外労働や、一か月間で100時間以上の時間外労働がある場合には、健康障害と長時間労働の因果関係が肯定されやすくなります。
 過労自殺の場合には、過労が原因となって、うつ病(精神的な健康障害)に罹患し、うつ病の結果、自殺に至ったという認定がなされる場合が多いといえます。

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