相続法の大改正
相続法は、民法の一部(第5編)ですが昭和55年以来、大きな改正はなされてきませんでした。
しかし、昭和から平成の時代を経て、日本人の平均寿命は延び、急速に高齢化、核家族化が進みました。こうした社会情勢の変化に対応するため、平成30年7月、相続法が改正されるに至ったのです。平成31年(令和1年)から32年(令和2年)にかけて、順次、施行されていきます。
以下では、自宅に関する配偶者の権利①②③、遺産分割前の財産の処分①②、遺留分減殺請求権の性質、相続による物権変動の対抗力、特別寄与制度の順に説明していきます。
自宅に関する配偶者の権利①
夫が、妻子を残して死亡した場合、遺産の分割は、妻と子供たちの協議によって決まります。自宅を妻が取得するという協議がまとまれば、何の問題もありません。
しかし、協議がまとまらない場合、不動産はノコギリで切って分けられませんので、最終的には売却して、代金を分けることになります。この場合、妻は自宅に住み続けることができません。
特に、自宅の所有権の価値が妻の相続分を超える場合などには、協議が難航します。そこで、今回の改正により、配偶者居住権という権利が新設されました。裁判所は、配偶者の生活を維持するために特に必要があると認めた場合に、配偶者に居住権を付与することが可能となりました。
配偶者居住権は、所有権そのものではないので、その価値が妻の相続分を超えてしまうことも比較的少なくなります。これにより、遺産分割協議がまとまりやすくなると期待されているのです。
自宅に関する配偶者の権利②
配偶者居住権としては、上述の配偶者居住権のほか、遺産分割が確定するまで認められる「短期」配偶者居住権も新設されています。
自宅に関する配偶者の権利③
夫が、自宅を妻に贈与した後に死亡した場合、自宅は妻の「特別受益」とされ、遺産の先渡しを受けたものとして取り扱われます。
その結果、自宅の価値が相続分を超える場合、妻は、その他の財産を相続することができません。立派な家に住めても、三食、卵かけご飯を食べる羽目になるかもしれないのです。
こんな悲惨な事態を避けるため、夫は「特別受益」について特別の意思表示をしておくことができます。しかし、その立証は、実務上、極めて困難でした。
今回の改正では、意思表示の推定規定が設けられました。これにより、特段の立証がなくても、意思表示があったものと扱われることになりました。
(つづく。改正相続法の基礎知識②)