遺産分割前の財産の処分①
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従前の制度では、預金は遺産分割の対象財産に含まれることを理由として、法定相続人による単独での払い戻しができませんでした。
新制度では、一金融機関あたり150万円を限度として、法定相続分の三分の一まで、単独での払い戻しが可能となります。
遺産分割前の財産処分②
父の死亡直後に、父と同居していた長男が、多額の預貯金を引き出してしまう場合があります。
意外かもしれませんが、引き出された預金は当然には遺産分割の対象になりません。他の相続人は、法定相続分に応じて、長男に金銭を請求することになっていました。
長男が特別受益を得ていた場合でも、それは考慮されません。特別受益は、あくまで遺産分割において考慮されるものだからです。
そこで、新制度では、長男以外の法定相続人全員の同意があれば、引き出された預金を遺産分割の対象とすることができるようになりました。
遺留分減殺請求権の性質の変更
従前、遺留分減殺請求権が行使された場合、生前贈与や遺贈の効果自体が取り消され、贈与等の目的物は遺産分割の対象となっていました。
例えば、事業用の不動産が生前贈与されていた場合、遺産分割がまとまらないと、最終的には、それを売却することになりかねません。十分な預貯金があるのに、事業用不動産が競売にかけられ、事業を継続できなくなるという事態もあり得るのです。
今回の改正で、遺留分減殺請求権が行使されても、生前贈与や遺贈自体の効果は維持され、遺留分は金銭で精算されることが明記されました。
相続による物権変動の対抗力
相続させる旨の遺言等により承継された財産についても、登記等の対抗要件を備えなければ、第三者に対抗することができなくなりました。
特別寄与制度
長男が父と父名義の自宅に同居し、長男の妻が父の介護に尽力してきたとします。長男や長男の子が父の財産を相続すれば、問題は顕在化しません。
しかし、長男に子がなく、長男が父より先に亡くなってしまった場合は問題です。妻は義父の遺産を全く相続できないので、父名義の自宅から無一文で追い出され、いきなりホームレス化してしまうこともあり得るのです。
相続法改正により、この妻のような人には、相続人(次男や三男)に対する金銭的請求が認められることになりました。
自筆証書遺言方式の緩和
紙幅の都合で詳細は割愛しますが、自筆証書遺言の方式についての規定が緩和されています。