本当は怖い身元保証契約

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前に所属していた事務所では、毎年1名から2名の新人弁護士を雇用して、1年から2年の期間、養成した上で、弁護士不足地域に赴任していただいていました。

まあ、新人弁護士に限らず、新しい人が入ってくるときには諸般の手続きが発生します。雇用保険やら、社会保険やら、健康保険やら、なんやかんやと面倒なものです。従業員に手厚ければ手厚いほど、諸手続きは面倒になります。

ところで、私も大阪大学基礎工学部を卒業した後、スポーツウエアのメーカーに就職しました。一応、一部上場企業だったので、それはそれは面倒な手続きが必要で、いろんな書類を書かされました。

さて、一般に入社にあたって作成を求められる書類の中に、身元保証書というものがあります。当事務所では作成しませんが、私がメーカーに入社する際には作成を求められました。これは、「この人が、故意または過失によって、会社に損害を与えたら、私が一切の責任を持ちます」といった内容の書面です。両親がいれば、両親が書くことが多いようです。

文言だけ見ると過失責任も含むわけですから、これはかなり広範囲の責任を定めています。従業員は、業務を遂行するにあたって、ミスをします。するに決まっています。人間ですから。ミスをすれば、会社には大なり小なり損害が出ます。身元保証書の文言を、それだけ見れば、そういった損害でも身元保証人に請求できそうです。

しかし、実際には、そんな請求をする企業はあまりありません。私がかつて所属していた企業も、私の発注ミスで約200万円の損害を出したことがありました。そんなことよりも私は2年で会社を辞めてしまいましたから、会社にとっては私を雇用したことは全く採算に合っていないはずです。いわば、私に支払った給料は全額損害と言ってもいいかもしれません。が、私にも父にも、そういった損害を請求することはありませんでした。ありがとうございます!

で、法的にはどうなっているかというと、こういった保証契約も一応は有効です。その上で、身元保証法(身元保証に関する法律)という法律がありまして、契約書の文言通りの効力はないよ、法律で効力が制限されるよ、ということが規定されているのです。たとえば、身元保証契約の有効期限は、この法律により3年ないし5年とされています。自動更新条項は無効となる可能性が高いでしょう。

さらに、2020年4月からは、民法の改正に伴い、身元保証契約の効力はさらに制限されることになりました。身元保証契約は、極度額の定めがない限り無効となりました(民法465条の2の2項)。極度額とは損害賠償の最大額のことです。極度額1000万円と定めたら、その保証人には1000万円以上は請求できません。定めがない場合には契約自体が無効として、一円も請求できなくなりました。

契約書に極度額を記載すると、連帯保証人として署名する人も慎重になるかと思います。極度額1億円などと書いてあったら、なかなか署名できないでしょう。しかし、よく考えてみたら、今までは極度額の記載がある身元保証契約など皆無でした。それでも、親御さんをはじめ、多くの方が連帯保証人として署名・捺印されてきたのです。

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