自筆証書遺言と公正証書遺言①

遺言の二つの方式

遺言は、通常、自筆証書遺言または公正証書遺言の方式で作成されます。他にも方式はありますが、ほとんど利用されていません。本稿では、自筆証書遺言と公正証書遺言との違いについて、ご説明します。

自筆証書遺言とは

自筆証書遺言は、遺言者が、その全文(日付、氏名を含む)を自書し、捺印することにより作成する遺言です(民法968条)。公正証書遺言よりも、一般の方のイメージに近いと思います。
ところで、お年寄りにとって、遺言の全文を自書するというのは、実はかなり大変です。年を取ると、加齢や病気の影響で手が震えて、字を書くのが難しいという方もいるからです。数ページにわたるような遺言を自書するというのは、あまり現実的ではなくなってきます。
そこで、自筆証書遺言のうち、遺産目録部分については、各頁に署名・捺印することにより、自書しなくてよいように相続法が改正されました。また、令和2年7月10日より、法務局が自筆証書遺言を預かる制度が施行されています。

公正証書遺言とは

公正証書遺言は、遺言者の口述を公証人が筆記することによって作成される遺言です(民法969条)。遺言者の意思能力や、こうして出来上がる遺言書は、遺言者や公証人の署名以外は、すべて活字で書かれたものになり、公証役場で預かってもらえます。
自書の必要がないほか、遺言の方式違反や遺言者の能力などを公証人がチェックしてくれるため、手間はかかりますが、安心度が高い方式となっています。

手続き面での違い

 自筆証書遺言も公正証書遺言も、内容面での効力は変わりません。各種の書籍やインターネット上の記事にも、そう書かれていることが多いです。基本的には、それで間違いではありません。
 しかし、遺言を執行する手続き面では、大きな違いがあります。そして、その違いは、誰が遺産を取得するかという効果にも影響を与える場合があるのです。この点に言及している書籍、記事等はあまりないようです。
 まず、自筆証書遺言を執行するためには、家庭裁判所で「検認」を受ける必要があります。家庭裁判所に検認が申し立てられると、家庭裁判所から法定相続人に対して、検認日が通知されます。つまり、被相続人が死亡したこと、自筆証書遺言書が存在することが、法定相続人の知るところになるわけです。
 もちろん、家庭裁判所からの通知で、配偶者や両親の相続発生を知る人は、多くはありません。たまにあるのが、死亡した人の前婚の子供や、認知した非嫡出子などです。彼らは被相続人との関係が希薄なことが多く、葬儀等にも呼ばれないことが多いからです。

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